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永尾まりや 大っ嫌い

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「まりや……」

 

「気安く呼ばないで」

 

 二日酔いで痛む頭を抱えながら、秋山祐介は彼女の名を呼んだ。

 が、彼女は冷たくそれを切り捨てるように、言葉を吐き捨てた。

 

 前夜に、酔っ払った勢いで元彼女だった永尾まりやの家まで行き、たまたま帰宅途中だった彼女を捕まえた。

 そう。文字通り“捕まえた”のだ。警察官が容疑者を捕えるように。

 

 復縁を求めたが、彼女は拒絶した。

 それだけではなく、あろうことが自分の前から逃げ出そうとさえしたのだ。

 

 祐介は逃げ出そうとした彼女の髪を掴んだ。手を伸ばしたら、彼女の長い髪が届いたのだ。

 体重をかけて引っ張る。そうすると、彼女は駆け出した反対方向へと倒れた。

 

 深夜の住宅街は、昼よりも音が響きやすい。

 しかし、幸運なことに、誰も家から出て来る者はいなかった。

 

 まりやは頭を打って気絶しているようだった。

 介抱しなくては。

 救急車を呼ぶほどのことじゃないと判断した祐介は、彼女のバッグからアパートの鍵を取り出した。

 

 抱きかかえて運ぶ。

 彼女の身体は付き合っていた頃と何ら変わりなかった。

 彼女のにおいがする。抑えようとしていた理性が、音を立てて崩れ去っていくのが分かった。

 

 

 

「まりや……。まりや……。まりやっ」

 

 気絶している彼女の名を荒い息遣いで呼びながら、祐介は腰を動かし続けた。

 久しぶりに抱いた彼女は、以前と同じように見えたが、襲ってくる快楽は比べものにならないほどだった。

 

「ああっ、ダメだ」

 

 避妊具の付けていないペニスから、白濁の液体がまりやの(なか)へ放出される。

 まだ挿入して十分と経っていない。こんなにも早く出したのは、初めてのことだ。

 

「まりや、どうして俺と別れたんだ。あんなにも愛し合っていたのに」

 

 いつの間にか祐介の目から涙が流れ落ちていた。

 涙は頬を伝い、彼女の腹部へ落ちた。

 

 そんな涙とは正反対に、祐介のペニスは再び硬度を取り戻した。

 続けざま、抽送(ちゅうそう)を再開する。

 

「んっ、はあ」

 

 気絶しているはずのまりやの口元から声が漏れ出した。

 風船を膨らませるように、祐介はその口元を自らの唇で塞いだ。

 

 まりやの目から、一筋の涙がこぼれた。

 けれども、快楽の海に浸る祐介に、それが気付くことはなかった。

 

 

 

「よくも(なか)で出してくれたわね」

 

 窓際に下着姿で佇む彼女は、怒っているようだった。

 

「覚えているのか」

 

(なか)から精子が流れてくるのだもの。覚えてなくても、分かるわ」

 

 自嘲気味に彼女は言うと、口角をわずかに釣り上げた。

 

「子供が出来たら――」

 

()ろすわよ」

 

 真っ直ぐに祐介のことを見つめながら、まりやは断言した。

 こんなレイプまがいで出来た子供など、産みたくなんてない。

 

「いや、しかし」

 

「『いや』も『しかし』もないわ。あんたの子供なんて誰が産むものですか」

 

 壊れている。

 まりやとの関係も、何もかもが。

 そう思うと、祐介はもう全てのことがどうでもよくなってきた。

 

 仕事のことも、両親のことも。

 目の前にいる女。

 彼の目にはそれだけしか映らなくなっていた。

 

「……うるせえ。うるせえんだよ、このメス豚!」

 

「え? キャア!」

 

 ベッドから勢いよく立ち上がると、祐介はまりやの身体を持ち上げ、ベッドへと放り投げた。

 軋むベッド。すぐさま祐介もその上に覆いかぶさった。

 

「止めなさい! それ以上すると警察に通報するわよ」

 

「やれるもんならやってみろ」

 

 まりやの身に着けていた下着が音を立てて破れる。

 まだ濡れていない女性器に突き刺さる男根。まりやは苦痛の声を上げた。

 

「お前は一生俺と一緒に居るんだよ」

 

 発情期の猿のようだと思った。

 私が愛した彼はこんな猿ではなかったはずだ。

 

 彼は一体誰だろう?

 どうして私は犯されているのだろう?

 

「まりや、好きだ! 愛してる!」

 

 叫びながら腰を振る祐介を、まりやは冷めた目で見ていた。

 

「私はあんたなんて、大っ嫌い」