文字サイズ:

男目線 泥酔の俺を拾ってくれた亜矢子 4

「俺、1限目が有るから学校行ってくる」 
と友人が支度をしているとピンポーンとチャイムが鳴った。かおりだった。 
「おはよう。わっ何これ汚ーい。○○くんもいるんだ、オハヨー」 
確かに汚い俺の部屋が、食べかす空き缶で更に倍。 
「まったく太郎は〜。どいてどいてっ」 
かおりは、部屋に上がり掃除を始めた。何ともキレイ好きで世話好きな彼女だ。 
「太郎がいると掃除できないから、どっかで時間潰してきて」 
そう言うとゴミ箱を片手に、空き缶を拾い始めた。 
とりあえず財布を持ってコンビニに向かった。いつものことだ。 
何となく雑誌を読んでると、後ろから 
「立ち読みは禁止ですよ」 
と聞き覚えのある声がした。 
振り向くと亜矢子が立っていた。

「おはよー」 
明るく笑った亜矢子は、この前とは違っていた。 
タイトなスーツにうっすらとした化粧。多分俺はこのときも亜矢子に見とれていたんだと思う。 
「何してるんですか、こんなところで」 
「今から会社。ホントは休みだったんだけど、早めに書類を提出してくれって電話があって。コンビニの前を通ったら太郎くんが見えたんで、この前のお詫びをしとこうかな〜と思って」 
「お詫びなんてとんでもないです。こちらこそごちそうさまでした。洗濯までしてもらって」 
二言三言話しをした後、亜矢子は手帳を取り出し何か書き始めた。

「これ私の家の電話。明日は休みだから良かったら今夜一緒に飲まない?近所のよしみでさっ。ほら、私のマンションだとお風呂もあるし。どうせ銭湯でしょ?今日は遅くても4時には帰ってきてるから、お姉さんがご飯つくっちゃうぞ〜」 
風呂無しアパート住まいの貧乏人な俺です。 
「でも・・・」 
「大丈夫、もう迫ったりしないから安心して」 
「違うんです。今日は彼女が来てて、今掃除中で・・・」 
亜矢子の顔が心なしか引きつったような気がした。 
「あっそうか。ゴメンゴメン。私、何言ってるんだろうね。じゃーねー、頑張れよ青年」 
そう言って亜矢子はコンビニを出て行った。 
俺は今し方もらった亜矢子の電話番号のメモをポケットにねじ込んだ。

部屋に帰ると、掃除は大体終わったらしく満足そうなかおりがいた。 
「少しは掃除すればー」 
毎週同じ事を言われる。 
「やってるつもりなんだけどな〜」 
全然してません。 
それからファミレスで昼ご飯を食べ、夜はかおりの不器用な手料理がいつものコースだ。 
しかしその日は違った。昼ご飯を食べた後、俺の部屋でテレビを見ていると 
「太郎ゴメン、今日は渋谷でゼミのみんなとの飲み会があるんだー。 
6時からだから9時か10時には終わると思う。その後でまた来るね」 
そう言ってかおりは帰っていった。 
することが無くなった俺はボーっとテレビを見ていた。

晩飯どうしようと思ったとき、今朝のことを思い出した。時計を見るともう6時前。 
俺の頭の中はまたまたクルクルと回っている。 
意を決し亜矢子に電話をした。出ない。やっと電話がつながった。が、亜矢子は何も言わない。 
「もしもし、太郎で・」 
と言いかけたところで、 
「只今出掛けております・・・」 
留守番電話だ。俺は留守番電話が苦手で、余程の急用じゃなければメッセージを残さない。 
亜矢子が留守でほっとしたような寂しいような変な感じがした。 
なんだこの感覚は。俺にはあんなに尽くしてくれるかおりがいるじゃないか。 
そう思い直し、弁当を買うためにコンビニに出掛けた。 
(考えてみれば、俺弁当かラーメンばっかり食ってたな〜。金もなかったし。) 
弁当とビールを買って店を出ようとしたとき、立ち読みしている女性に気がついた。 
「立ち読みは禁止ですよ」 
と、声をかけると。 
ビクッっと肩をふるわせて亜矢子が振り返った。 
「こんばんは」 
亜矢子は変な顔をして、 
「彼女は?」 
と聞いてきます。